バッドマン ビギンズ

〜敢えてシュマッカー版を讃えてみる〜

2005 米 

監督:クリストファー・ノーラン


 ティム・バートンの手による「バッドマン」「バッドマン・リターンズ」は完全なオナニー映画です。マスターベション映画と言った方が上品かもしれませんが、あえてわたくしはこの2本を“手淫映画”と呼ばせてもらいましょう。思えば、バートンの映画はどれもこれも同じです。社会のはみ出し者が、なんとか社会を見返してやろうとする話。別にバッドマンでなくても良いのです。特にこのバッドマン関連の2本については、そのようなヤワな感性が鼻について仕方ありません。特に「バッドマン」に於いて、ジャック・ニコルソン扮するジョーカー(これも、白塗りしているだけでいつもどおりのジャック・ニコルソンです)が美術館を襲撃するシーン。ジョーカーとその手下は、美術品や絵画を破壊しまくります。と、ある絵をナイフで切り裂こうとした手下の手をジョーカーが制し、言います「気に入った。こいつは頂いていく」で、その絵というのが、フランシス・ベーコンの絵……頭がクラクラしました。仮にもブロックバスターの超大作で、こんな「美術手帖」やら「芸術新潮」を購読して悦に入ってるような食の細いアート野郎向けのギャグを入れるあたり、バートン、大概にせえよ。と言いたくなること仕切りです。「リターンズ」では「大金使って悪いことをする大富豪」というバッドマンのネガであるペンギンのキャラを、フリークスに変更しています。ミシェル・ファイファー演じるキャットウーマンの正体も、イケてない負け組OL。ええ歳こいた大人がいつまでも少年時代のルサンチマンとコンプレックスを引きずってんじゃねえ、とスクリーンを切り裂きたくなる思いです。

 それに引き替え、「バッドマン・フォーエヴァー」と「バッドマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲」の2本、つまりジョエル・シュマッカー版の葛藤の無さと楽しさはどうでしょう。リドラー(ナゾラー)を演じるジム・キャリー……わたしは彼の生涯ベスト3作品は、「バッドマン・フォーエバー」と「ケーブルガイ」そして「ジム・キャリーはMr.ダマー」であると信じて止みません。ヴァル・キルマー演じるバッドマンはサッパリでしたが、何と言ってもこの映画からクリス・オドネル演じるロビンが登場することは嬉しい限り。このホモっぽさ、変態っぽさがバッドマンなのです。それにロビンのコスチュームにはニプルがついています。ジョエル、判ってるわ。シュワ演じるMr.フリーズがサッパリだった「バッドマン&ロビン」ですが、この悪役に全く感情移入せずに作られた開放感が、シュマッカー版の魅力です。鬱から躁へ。まさにそんな感じ。しかもこの作品でバッドマンを演じるのは、ジョージ・クルーニー。童貞臭いコンプレックスとは100万光年離れた彼岸に立つ人物であり、そういう奴にでないと安心してバッドマンは任せられません。

だいたい、シュマッカー版では悪者キャラが全員死なない(トミー・リー演じるトゥー・フェイスだけは墜落死したようですが、死体は映らないので生きている可能性は捨てきれない)。後のシリーズ化への配慮があるところは、さすがオトナのシュマッカーです。1作目にしてジョーカーをあからさまに殺してしまったティム・バートンの配慮の無さと自己中心的な幼児性ときたらどうでしょうか。
バートン、ソープに行け!!!

さて、今回のクリストファー・ノーラン版ですが、ノーラン、アンタ真面目過ぎるよ、という感想しかありません。次はいよいよ「ダークナイト・リターンズ」だそうですが、ジョン・カーペンターあたりに任せてみてはどうかと思います。
 

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